★当レポートはIGFAのWEBサイトに掲載されたレポートを翻訳したものです。(翻訳:東知憲さん)
IGFAのホームページ(原文・英語)
【正式認定! 日本のラージマウス・バス、IGFAオールタックル世界タイ記録】
『淡水における「聖杯」を2人が共有。栗田学さんが釣り上げた22ポンド4オンスの魚は、77年前にジョージア州のジョージ・ペリーがキャッチした記録魚とタイ』
2010年1月8日、フロリダ州ダニアビーチ発 --- 6ヶ月近くの審査を経て、栗田学さんはIGFA(国際ゲームフィッシュ協会)のオールタックル部門における世界タイ記録保持者となった。77年前にジョージア州のジョージ・ペリーが釣り上げた22ポンド4オンスの魚に並ぶものだ。
IGFAは、2009年7月2日に栗田さんが日本最大の湖で釣った魚の申請を、本日付で承認した。資源の保全、教育および記録管理をおもな業務とする、70年の歴史を備えたこの非営利団体が、栗田さんの申請書を受領したのは昨年の9月19日だった。対象となったラージマウス・バス (Micropterus salmoides) が釣れたのは、京都の北東に横たわる古代湖である、琵琶湖。
愛知に在住する32歳の栗田さんが使ったタックルは、Deps サイドワインダーに25ポンドの東レ製ラインを巻いたアンタレスDC7LVという組み合わせ。橋脚ちかくに大きなバスが泳いでいるのを目にした栗田さんは、生きたブルーギルを餌にしてキャストした。着水後に数回小さくトゥイッチすると、その魚はバイトしてきたという。わずか3分のファイトの後、バスはボートの上に横たわった。
栗田さんはこう言ったらしい。「大きいとは分かっていましたが、ここまでとは」。
しかし、実に大きな魚だった。認証済みのハカリを用いて計測した重量は、10.12 kg (22ポンド4オンス)。叉長は27.2インチ、胴回りは26.7インチだった。ラージマウス・バス用のラインクラスは20ポンドまでしか存在しないので、ラインクラス別世界記録には申請できなかった。
IGFAの定めるルールによれば、米国外でのキャッチは、釣り上げた日から計算して90日以内に申請書が到着しなければならない。栗田さんの申請書は、姉妹団体であるジャパンゲームフィッシュ協会 (JGFA)を通じて提出された。IGFAの資源保全担当ディレクターであるジェイソン・シュラトワイザーによれば、栗田さんの申請書は、写真もデータも完全で、ビデオも添付されていたという。
栗田さんの魚は、ジョージア州ジャクソンヴィル近郊のモンゴメリー・レイクで1932年6月2日にジョージ・ペリーが釣った魚とタイ記録となる。ペリーの魚は、フィールド&ストリーム誌が主催する大物コンテストで優勝し、46年後にIGFAが淡水記録部門を引き継いだ時にもオールタックル世界記録となった。それは、IGFAが管理する1,100もの淡水・海水魚記録の中でも、トップに君臨するものだ。
IGFAオールタックル世界記録は、IGFAのウェブサイトから自由に閲覧できる。栗田さんの名前は現在、ペリー氏とともにラージマウス・バスのオールタックル世界記録保持者として登録されている。さらなる大物がキャッチされない限り、2011年版のIGFA定期刊行物「ワールドレコード・ゲームフィッシュズ」にも掲載される。
世界でも人気の釣りウェブサイトであり、バスアングラーズ・スポーツマン・ソサエティ (BASS)のオフィシャルサイトであるBassmaster.comでは、この世界タイ記録認定会見がIGFA本部から生中継された。
北米において、ラージマウス・バスのオールタックル記録は、まさに淡水の聖杯として扱われている。この釣りの人気と、ペリーが作った大記録という壁の高さによるものだろう。ラージマウス・バスは、アマチュアによる釣りの大きな部分を構成する、巨大産業を生み出しているのだ。
シュラトワイザーは語る。「栗田氏があの魚を釣ったという噂は、野火のように広がっていきました。その重要性を理解した私たちは、ただちにJGFAに連絡を行って詳細情報を要請しました。1979年に創立されたJGFAは、IGFAに提出する申請書をとりまとめ、翻訳作業をしてくれます。細かな情報が必要なときは、アングラーに連絡を取ってくれるので、たいへん助かります」。
『長期間にわたる審査』
「キャッチから記録承認までは3ヶ月の審査期間がありますので、正式決定は10月2日となる予定でした」とシュラトワイザー。
「しかしすぐに、栗田さんが禁漁区で釣っていたとの噂が立ち始めました。そこでIGFAはただちにJGFAと連携して、栗田さんに事実関係を調査したのです。栗田さんからの返事は『釣りをしたのは禁漁区ではなく、船の停留が禁止されている場所』ということでした。さらにJGFAを通じて、監督官庁を含め連絡を取ることになり、栗田さんからはボートを停留させていないという宣誓書も提出されました。つまり、法律を破ってはおらず、そのキャッチは正統なものということです」。
しかし、話はそこで終わらなかった。IGFAとJGFA、そして栗田氏との間に、さらに連絡が繰り返された。判断が年をまたいだのは、それが理由だったのだ。
その間、IGFAには手紙やメールが殺到したという。「日本で釣れた魚が、オールタックル世界タイ記録となるのは信じられないとする人も多かったですね。一方、栗田氏の記録を認定し、その栄誉を称えるべしという意見も、もちろんありました。なぜ認定にこれだけ時間がかかっているのかという問い合わせもありました。記録を認定するにも申請を棄却するにも論争含みの問題だな、とIGFAのスタッフは思うようになりました」。
「IGFAは、ラージマウス・バス記録には、とりわけ注意深く対応しています。申請に関して、過去に何度か訴訟ざたも起きていますから。すべて当方が勝訴してはいますが、IGFAは相当の経済的負担を強いられました」。
今回の申請に際し、IGFAスタッフは、IGFAおよび栗田さん自身のために、ポリグラフ試験を受けてもらうのがベストだと判断した。記録審査のさいにポリグラフ試験を要請する場合があるということは、記録申請書にもはっきりと表記されている。JGFAとは、さらにやりとりが続いたが、栗田さんは試験にただちに同意した。
そして昨年12月5日、彼は日本国内で、プロの試験官が実施するポリグラフ試験を受けた。申請書に記載された内容の正しさとともに、その魚を掛けて取り込むまで、ボートが停船した瞬間があったかという事も確認された。
ポリグラフ試験の結果、栗田学さんは質問にすべて正直に答えており、そのキャッチは正統なものであるという結論が得られた。
77年前にジョージ・ペリーが作った記録に、正式に並んだのである。
『仕事が実を結ぶ』
「タイ記録認定のためにしては、6ヶ月はかかりすぎだと思われるかもしれませんが、IGFAがこの審査に際して行った努力をご理解いただきたいです。あらゆる記録に対して公平な目配りをしますが、ラージマウス・バスのオールタックル世界記録はまさに偶像的なものであり、バスフィッシング・コミュニティにとっても大きな重要性を持つので、ミスは一切許されなかったのです」。
シュラトワイザーはこう付け加える。「栗田さんには、このすばらしいキャッチに拍手を送りたいと思います。また、彼の忍耐と正直さに感謝します。さらに、栗田さんおよび関係省庁との連絡を仲介していただいたJGFAにもお礼を申し上げなければなりません」。
『生物学と世界のバス:次の世界記録は?』
ラージマウス・バスは世界各地に移植されているが、日本の水産行政では「侵略的外来種」とみなされている。日本原産ではなく、いずれかの時点で放流されたものなので、日本産の巨大バスは生殖力を持たない三倍体であると考える人もいた。しかし、栗田さんがキャッチした魚の卵巣を生物学者が分析したところ、それは通常のものだった。
77年もの間、オールタックル新記録の魚がどこで釣れるか、意見百出という状態だった。ペリーの魚とタイ記録もしくはそれ以上のものを釣ったという噂が出たことはあったが、IGFAの審査をクリアしたものはなかった。シュラトワイザーによれば、ロバート・クルピがカリフォルニアのレイク・ディクソンで1991年に釣った22ポンドの魚がもっとも近かったとのことだ。これはいまだに16ポンドライン・クラスの世界記録であり、IGFAが認定したなかで3番目に重いブラックバスだった。
「ほとんどの人が、オールタックル世界新記録はカリフォルニアから出ると考えていたようです。栗田さんの魚が出現するまで、ペリーの記録に続く7尾が釣れたのは、すべてカリフォルニアだったからです。もともとラージマウス・バスはカリフォルニアにはいなかった魚ですが、移植されたバスは、彼の地の深く透明な湖と、トラウトというエサによく適応し、大きく育つようです。しかし、カリフォルニア以外の地でも大きく育つとは、あまり知られていなかったのですね。ましてや、日本という世界の反対側に、真のモンスターが育っていようとは」。
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