10/14(日)「東京湾スズキ・シンポジウム あれから20年」が開かれました!

2018年10月14日(日)、東京・夢の島マリーナ2階大会議室で「東京湾スズキ・シンポジウム あれjから20年」が開かれました。(写真:山田真人)

JGFA40周年記念事業「東京湾スズキ・シンポジウムあれから20年」

・主催: NPO法人 ジャパンゲームフィッシュ協会(JGFA)
・日時: 2018年10月14日(日) 15:30~17:40
・会場: 東京・夢の島マリーナ・2階大会議室
・参加者: 70名

「いい釣りをいつまでも。」をスローガンに掲げるJGFAが創立40周年を記念してシンポジウムを開きました。

【20年前の東京湾スズキ・シンポジウム】
JGFAは20年前の1998年11月、JGFA20周年記念事業として、1985年から開始した東京湾のスズキのタグ&リリース結果をまとめ、その発表を兼ねて「東京湾のスズキ・シンポジウム」を開催しました。釣り人側から、タグ&リリースから得たデータを発表し、釣り対象魚(ゲームフィッシュ)の将来を論じ合うシンポジウムを開いたのは日本で初めての試みであったかもしれません。このシンポジウムを開くきっかけは、多くの釣り人から愛されているスズキの釣れ具合が悪くなってきたからでした。
このスズキという魚は、大都会の傍らで釣れるすばらしい魚です。その釣り人の宝というべきスズキが釣れにくくなってしまったのはなぜなのか、以前のようにまた釣れるようにするにはどうしたらいいのか、このシンポジウムでは、釣り人、研究者、行政、漁業者、遊漁船業者から一人ずつパネラーとして各立場からの意見を述べ、そしてテーマであるスズキについて釣り人が抱える不安や疑問に対してディスカッションしました。
その結果、自然環境改善、釣果の自主規制、漁業による乱獲防止、産卵期の禁漁、などが方策として上げられたほか、釣り人も漁業者も資源維持を共通課題と捉え、真剣に取り組むことが提案されました。また、この取り組みが日本の釣りの将来のためのモデルケースになればという思いもありました。
あれから20年、東京湾では今もスズキ釣りは行われており、漁業も存続していますが、現状はどうなのか、それを検証することによってさらにこの先、東京湾のスズキをどのように守っていけるのかについて改めてシンポジウムを開き、考え、行動していきたいと思います。

【そして、20年後の今、再び、東京湾のスズキ・シンポジウム】
2018年10月14日、当日併催されたJGFA40周年記念パーティーに先立つ時間帯(15:30~17:40)にJGFA主催による「東京湾スズキ・シンポジウムあれから20年」が開かれました。あれから20年経ち、現在も東京湾のシーバスフィッシングは釣り人の皆さんに大いなる楽しみを提供し続けています。なんらの規制もなく、この釣りを続けてこられたのはほんとうにラッキーなことと思いますが、その歩みを振り返るとともに、今後も末永く、この楽しく、かつ、世界に誇れる釣り場とスズキを支えていくためにはこれから何が求められるか、20年前と同様、各ジャンルの識者の方にパネラーとなっていただき、ディスカッションいたしました。
参加者は70名。JGFA会員はもとより、漁業者、研究者、行政、船宿、マスコミ、一般の釣り人など多方面にわたり東京湾のスズキに関心を持つ方が集まりました。
はじめにJGFAで1985年以降現在までタグ&リリースのとりまとめをしてきた若林務理事より、東京湾のスズキに関する移動、成長、分布範囲などがタグ&リリース調査結果より発表され、その後、さまざまな立場、観点からパネルデスカッションが行われました。

パネラー(敬称略):
(1)釣り人 徳永兼三(JGFAアンバサダー) ボートフィッシング
(2) 釣り人 村岡昌憲(JGFAアンバサダー) ショアフィッシング
(3)漁業者 大野和彦・宗形健一郎(船橋市漁協・海光物産・大傳丸)
(4)研究者 工藤孝浩(日本魚類学会)
(5) 行  政 櫻井政和(水産庁)
(6)チャーターボート 森聡之(JGFA評議員・釣魚保全委員会)
コーディネーター(司会進行): 若林務(JGFA)


【パネラーの発言要旨(抜粋)】
★釣り人の立場から・・・徳永兼三、村岡昌憲
徳永氏は30年以上、ボートシーバスゲームを楽しんできたベテランアングラー。かつてはいたるところでスズキは釣れたが最近は釣れる場所も限られ、とくにここ2,3年は極端に釣果が落ちてきており、危機感がある。また、80cmを越す大型が釣れる割合もずいぶんと減ってしまった。80cmを越す大型になるのは10年以上かかるし、60cm以上のスズキは水銀の問題もあって流通自粛対象(東京都)になっていることもあり、リリースすることで少しでも大型魚を残してもらいたい。一方、村岡氏はショアー(岸)フィッシングのベテランで、徳永氏同様、かつてはいたるところで釣れていたことを経験しているが、今では釣れる場所も限られてきてしまい、1ヶ所で釣れるスズキの数もめっきり少なくなってきてしまった。スズキの数が減少したせいもあり、昔のタックル、ルアーでは釣れないこともあった。このままではさすがに東京湾のスズキも危ない。

★行政の立場から・・・櫻井政和
JGFAが永年、タグ&リリースを通じて東京湾のスズキに限らずさまざまな魚種について調査データを積み重ね、このようなシンポジウムを開催し、啓発活動を実施していることに敬意を表したい。東京湾のスズキの漁獲量は近接する海域と比べても圧倒的に多く、鹿島灘から遠州灘にかけての各海域の中で、全体の90%を越える(海面漁業生産統計調査)。日本全国でももっともスズキ漁獲量が多い。しかし、遊漁の釣獲量データはほとんどなく、こちらの把握が必要。今後は、釣りの持続性の確保という観点から振興と規制、管理のバランスをどう考えていくか、釣り人にも問われている。

★漁業者の立場から・・・大野和彦、宗形健一郎
漁業の立場からもスズキ資源を維持することが最重要課題であり、近年、我々巻き網業者は資源保全の一環として、産卵期(11月~2月)は自主的に禁漁している。 一方で漁獲したスズキを最高の味、価値を持って市場に提供するために資源管理型漁業に転換、世界に誇れる江戸前の魚を2020年の東京オリンピック、パラリンピックの際に世界の人たちに提供したいと考え、そのためにたいへん厳しい条件をクリアして国際認証(資源保全を念頭に置いたものにしか認証を与えない)を得たいと考えている。この認証を得るための努力こそがスズキ資源保全につながると考えている。漁業も釣り人も共通の資源としてスズキの行く末に責任を持つべきだ。

★研究者の立場から・・・工藤孝浩
東京湾は日本一スズキが多い海であり、東京湾のスズキ資源は、過去20年間において高位・安定傾向にあったと考えられる。東京湾において近年安定した資源を維持している魚は、スズキを筆頭に、コノシロ、イワシ類、アジ類、サバ類、タチウオなど小魚やプランクトンを捕食するいわゆる「浮き魚」たちであるが、海底に依存している、かつての江戸前の釣りものの代表格だったカレイ類、アイナメ、マハゼ、アナゴなどの「底魚」たちは資源の低迷が著しく、乗合船がほとんど成立しない状況が続いている。魚ではないがシャコは海底近くの貧酸素状態によって生息環境を奪われ、長年にわたる禁漁措置にも関わらず資源回復の兆しすらみられない。貧酸素状態を何とかしないと未来はない。その中でスズキは東京湾生態系の最後の砦ともいえる魚であり、スズキを守ることは東京湾の生態系を守ることに繋がる。

★チャーターボート(遊漁船)の立場から・・・森聡之
横浜・根岸をベースに、スズキをメインにチャーターボートをしているが、かつて十数年生活していたアメリカではかなり以前から資源管理やバッグリミットなどの規制がしかれ、そのおかげで安定した資源確保が実現し、うらやましかった。日本では、そのようなシステムがないことに歯がゆさを感じている。たしかに東京湾はスズキが全国的に見て生息数は多いことはわかったが、このまま制限なく釣り続けていたら釣り場は長く持たないと危機感を感じている。スズキが減ったと実感したのは2012年ごろから。それも急激に減っていると思わざるを得ない。早く手を打たないと漁業も釣りも存続できなくなると危機感を感じているし、チャーターボートの営業がいつまで続けられるか不安でいっぱいだ。(森聡之)


【総括】
今回の研究発表でもわかるとおり、東京湾のスズキは多くの調査によって移動、成長、分布などの生態があきらかにされ、漁獲量も永年にわたって継続的に調査されてきているが、釣り(遊漁)と漁業の共存を考えると、釣り人がどれほどスズキを釣っているのかを把握する必要があり、そのための調査が必要だ。釣り人が釣れなくなったといっても確たる数字がなければただの感覚で終わってしまう。対策にはつながらない。現在、水産庁と釣り人団体の間で海面遊漁意見交換会が行われ、その話の中から、東京湾のスズキの釣果を把握するための調査を来年から始めようという状況が生まれた。このチャレンジは、そのほかの地域、魚種に対しての釣獲量把握につなげられればというたたき台の意味もある釣り人も漁業者もお互いの立場を理解し、共存していくためには今後も漁業や釣りを取り巻く状況に関心を持ち、資源存続のためにお互いに努力することが必要だ。このシンポジウムがそのきっかけとなることを願っている。釣り人の皆さんの理解と協力をお願いしたい。

シンポジウムのテキストとして参加者に配布された「JGFAタグ&リリース・ハンドブック」。レギュラー会員以上でJGFAに入会した会員には無償で配布されている。タグ&リリースの意義、目的、方法、再捕実績データなどが詳細に記されている。

東京湾スズキの移動経路図。1985年~2017年までのデータ。この間、東京湾では59,073尾がタグ&リリースされ、574尾が再捕された。(再捕率0.97%・全国では1.11%)このうち、東京湾外で再捕されたのはわずか4尾だった。

東京湾のスズキの成長グラフ。アングラーが釣りたいと思う80cm以上に育つには少なくとも10年はかかっている。大型が釣りたいのであれば60cm以上のリリースをとくにお勧めしたい。

1977年~2015年までの東京湾と隣接海域のスズキ漁獲量経年変化。東京湾の漁獲量は赤の折れ線グラフ。1987年から増加傾向にあって2006年にピークを迎えた後、減少しているのがわかる。

東京湾の海底では何が起こっているか。夏以降、秋にかけて生物の生息を脅かす貧酸素水塊が広がる。(図中の青色部分)さらにひどくなると青潮となり、底魚やシャコ、カニ、エビ窓に大打撃を与える。

漁業者の代表としてパネラーを務めた大野和彦氏の著書「漁魂」。資源管理型漁業を推進し、誇りを持って漁業を続ける決意が示されている。